【ナンデモ歴史54】「直虎」現象とは何か ー メディア戦略の観点から

そういうわけで、最近大河ドラマにドハマリしているのですが、ツイッターを追いかけていてナルホドと思ったことがあります。

今回の「おんな城主直虎」は、メディアでは視聴率が悪い悪いと叩かれる一方、ソーシャルや関連CDの売上では「超人気」になっています。これは、これまでの大河ドラマ、例えば「平清盛」などもそうでしたが、ますますこの乖離が激しくなっているように見えます。本日はこの乖離現象について、考察してみます。

まず、大河ドラマは、NHK総合の本放送の前にBSでの放送があり、再放送もあり、録画もでき、ネットでのオンデマンド視聴もでき、視聴者が分散するので、本放送の視聴率はあまり意味がない、ということが言われます。それが一つの前提。

NHKの情報公開によると、「直虎」に「厳しい評価」をしている層は圧倒的に60-70代の男性、一方「良い評価」をしているのが圧倒的に20代以下-40代の女性であり、当初やや厳しい意見が多かった流れが変わったのは4月の「徳政令の行方」の回からだった、というのにとても興味を惹かれました。(このデータは6月現在なので、最近の動きは含まれない)

これは、好評の理由が「女性がイケメン俳優を見たいから」ではない、ということを示しています。もしそうであれば、高橋一生が出始めたもっと早い回に変化が現れるはずで、もう一人のイケメンキャラである三浦春馬はこの頃、すでに退場しています。

もう一つツイッターで気づいたのは、無名ということでしばしば批判される「直虎」という女性キャラクターを、放送開始より前から知っていた固定層があった、ということです。つまり、「戦国系ゲーム」であります。だからNHKは、ゲームの音楽でよく知られた菅野よう子さんをこのドラマで起用したのでしょう。

また、あの衝撃の「嫌われ政次の一生」の構図が「ロンギヌスの槍」であるという話を前々回書きましたが、これは「エヴァンゲリオン」で超有名なのだそうです。そういうわけで、この大河は、このあたりのカルチャーに何かとフレンドリーです。

私はゲーム方面はよく知らないのですが、こうした戦国系ゲームはけっこう女性のファンが多く、「歴女」とよばれる、と理解しています。彼女らは、ネットでソーシャルをやる人たちでもあります。そして、今回の直虎の物語は、断片的な史実以外はそもそもどこにも存在しないので、歴女達にとっても、次の展開が全くわからない「新しい物語」です。

NHKは、これらをわかった上で、若い女性でゲームや歴史が好きな人を「コア層」としてターゲットにしている、ということかと思われます。もちろん、中味としても、女性の共感をよぶ心情描写や美しい画面などが満載です。(花や動物を効果的に使っていますね!)

すなわち、いわゆる「テレビ離れ」しているこの層を取り戻す、ということをNHKが狙ってやっている、と私は思います。彼女らは、仕事や家庭で忙しいし、そもそもテレビを見る習慣がないので、必ずしも本放送をリアルタイムで見ることができず、分散して、いわゆる視聴率は低くなります。ですので、視聴率が低いとメディアが叩いても、制作側はあまり気にしないでしょう。

昨年の「真田丸」も私は面白く見ていました。こちらは根っからのテレビっ子である三谷幸喜さんが、広い層に受ける、一回見てその場でわはは面白いと思える、とてもテレビ的な作品を作ったために、視聴率は高く出ました。

一方、今年の森下桂子さんは、「あれ?これってあの伏線回収?」とか「ツイッターではこういう解釈が出た」などと、積み上げた背景への理解がないと、ぱっと見て面白いとは思えず、「マス層」にはアピールしません。「難しい」というか、楽しむツボが違うというか、なのであります。

それでもいいのです。NHKは広告を売っているわけではないので、瞬間的な視聴率は関係ありません。より多くの人たちがNHKを見て、満足して加入料を払ってくれさえすればいいのです。おじいちゃんたちは、直虎をこき下ろしても、NHKを見るのはどうせやめませんので、心配ご無用です。

このあたり、ゲームもソーシャルも興味のない「テレビ系」のメディア記者たちには、理解できない部分でありますが、これはどうやら、NHKの「孔明の罠」の勝ちと私は思います。

番組終了後、あの衝撃の回以降も含めた全体の視聴者評価データを、ぜひ見たいものです。

直虎を見ていると、ネットフリックス最初のオリジナル作品として映像業界に大きな影響を与えた「ハウス・オブ・カーズ」を思い出します。あれを最初に見たときに、内容に衝撃を受け、またこれはマス向けのテレビでは絶対受けない、オンデマンドで、特定層の視聴者向けで、イッキ見や必要に応じて見返せるなどでないと無理だな、と思ったものです。直虎と似ています。

そして、加入料金方式のネットフリックスが目的とすることは、NHKと似ています。

それにしても、ネットフリックスで、直虎をやってもらいたいと切に思います。もちろん公表はされませんが、上で見たようなNHKの把握しているデータよりも、もっと大量に面白い視聴データが出ることでしょう。(ワクワク♡)それに、世界配信してくれれば、アメリカでもオンデマンドで見られるのにぃ。(NHKにも、全世界からライセンス料がはいりまっせ!カーン!)

ちなみに、これまで直虎よりさらに無名でゲームにもなかった「小野政次」というキャラクターが、最近どこぞのゲームに登場したようです。無名だった新選組の山南総長が、堺雅人の演じたイメージで定着したように、小野政次も高橋一生の演じたキャラクターとして今後も定着することでしょう。