【ベイエリアの歴史40】アメリカの大統領選の海部流まとめ

アメリカの大統領予備選で、民主党もヒラリー・クリントンがほぼ確定しました。今回の大統領選は大荒れですが、改めてきわめておおまかに整理すると、こんな感じになると思います。

共和党が右、民主党が左、という伝統的なイデオロギー対立が1990年代には弱まったため、左右2象限ではなく、こんな4象限に分裂した感じになっています。

右側の共和党は、以前からこの上下の分裂がはっきりしていましたが、右上の伝統的富裕層と右下の保守白人庶民の間では「保守キリスト教思想」という共通項が接着剤の役割を果たしていました。90年代にはいり、共和党の言うことが堕胎禁止のような「え?そこ?」と言いたくなるヘンな争点ばかりが前面に出るようになって、一体何がどうしたんだ?とずっと疑問だったのですが、「共産主義の脅威」がなくなって、上下をつなぐ接着剤がこれしかなくなってしまったから、という町田さんの話でようやく腑に落ちました。

アメリカの大統領選はとてもお金がかかるので、お金を持っている人たちの意見が通りやすく、このため共和党の幹部は右上のお金持ちの人たちに有利な政策をとってきました。前回選挙のときの共和党候補、ミット・ロムニーはまさに右上の人たちを体現していました。それでも、接着剤のおかげで右下の人たちがついてくる、はずでした。

しかし、80年代あたりからの数々のサプライサイド的なお金持ちに有利な政策の結果、所得格差が拡大し(このあたりは、最近読んだジョセフ・スティグリッツ著「Rewriting the Rules of the American Economy」という本によります)、さすがに右下の層の人たちが反乱を起こし、右上の人たちからお金を貰わなくていいトランプに群がりました。一方で、共和党幹部もここ2回の選挙敗北で、人種マイノリティや女性を取り込まなければいけないと焦り、マーコ・ルビオのような、あまり典型的ではない候補者を立てようとしましたが、結局絞りきれずに乱立して右下のトランプに吹き飛ばされてしまいました。右上の人たちは、マイノリティ候補者に納得しない人が多かったりして内部で合意ができず、バラバラだったのでしょう。

一方、民主党はかつては労働組合・人種マイノリティが主流で、これにリベラル思想インテリ層が乗っかっている感じでしたが、90年代のバブル以降、ウォール街のバンカーやシリコンバレーの起業家・投資家が大儲けできるようになりました。これらの人たちは、「リベラル思想インテリ層」に該当し、また人種マイノリティも多い業界ですので民主党支持であり、最近はむしろ民主党支持者のほうが「お金持ち」の頭数は多くなってしまったのではないかと思います。(持っているお金の総額はわかりませんが。)

しかし、こういった左上の人たちも、上記のサプライサイド的政策の恩恵でお金持ちになった人たちであり、「マイノリティ」は仲良しだけど「貧困層」にはあまり同情できないタイプの人たちです。クリントンが「ウォール街と癒着している」とサンダースが攻撃するのがまさにこの点です。民主党政権の間も同じように格差拡大が続きました。

「下」の反乱の受け皿という意味では、バーニー・サンダースはドナルド・トランプととても似ています。ただ、彼の場合は自身がお金持ちではなく、特に初期の頃にネット選挙戦略で卓越して若年層の支持を集め、お金もオバマが切り開いた「ネットで少額のお金をたくさんの人から集める」手法を採用しました。話題を集めたオバマのネット選挙戦の手法を最も忠実に継承したのがサンダースでした。

また、両者は「誰を悪者にするか」が違っています。トランプは、どうせ選挙権などない「外国」が悪者としてちょうどいいので、「グローバリゼーションのせいで君たちは貧乏になったのだ」と言います。一方、サンダースの言っていることは上記のスティグリッツの本そのまんま(というか彼の説を下敷きにしている?)で、「銀行や製薬会社の権力濫用が悪い」と主張します。

こういった下々のドタバタを超越していたのがヒラリー・クリントンでしたが、サンダースの意外な善戦に苦しみました。それだけ、格差社会の問題がアメリカで深刻であるということの表れです。しかし、サンダースはどうしても女性やヒスパニックなどの人種マイノリティに人気がありませんでした。この辺りの理由は、私にはまだよくわかっていません。このあたりも含め、民主党の上下分裂は、最近顕著になってきたとはいえ、共和党ほど激しくなく、やや混沌としています。

それにしても、そういうわけで共和党はまさに崩壊の危機に面しています。トランプが大統領になってもならなくても、党の分裂など、重大な危機を迎えそうです。

ヒラリーについてはまた別途書こうと思いますので、今日はこのへんで失礼します。