経営

國領二郎著「ソーシャルな資本主義」と私の本の関係

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4月25日、ニコ生「ゲキBizチャンネル」にて、慶應大学の國領二郎先生と新刊記念対談を行う予定。その予習を兼ねて、國領さんの近著「ソーシャルな資本主義」を読んだので、対談の準備を兼ねてメモしてみる。 1) 似てる・・

この本が出たのは先月3月15日、読んで「え、これヤバい」と思ってしまった。いや、最近の若い人のいう「ヤバい」ではなく、私達の年代の意味での「ヤバい」。私の本が「この本のパクリ」疑惑を招きかねないほど、いろんな点で似ている。

特に、結論部分で國領さんが「信頼」、私が「志」と呼んでいるモノ。あるいはプライバシーに関する考え方。あるいはひとつの産業構造の終わりという考え方。しかし、もちろんパクリではない。國領さんも同じようなことを考えている、というより、ネット業界の心ある人は皆、同じように考えているのだと思う。一つの大きな現象を、國領さんは「つながり」という面から、私は「データ」という面から眺めて話をしているだけだ。

2) 産業構造の終わりとアウフヘーベン

私は大学生などへの講演の中で、1950年代頃成立した「大量生産・大量消費」の経済エコシステムが緩み、新しいものに代わりつつある、という話をよくする。そのエコシステムは非常にうまくできていて、今も実は大きな部分はそのシステムに依存しているのだけれど、簡単に言えば「規格品の大量生産(=低コスト生産)→トラックによる大量輸送(=市場の広域化)→大型スーパー(=郊外型立地)→大型郊外住宅+車依存ライフスタイル+テレビによる全国一律マス広告→ますます大量生産が可能に(最初に戻る)」という循環構造をとる。日本でもある程度はこれと同じだが、アメリカは極端にこのパターンが発達している。しかし、70年代石油危機のときに、このコスト構造を支える石油の価格が上がって支えきれなくなり、以来この構造は少しずつ緩んで崩壊しつつある。エコ志向、都市回帰、大規模安売り店舗の苦戦、アメリカ自動車産業の落日、テレビ離れなどの現象は、いずれもこの大きな「崩壊」という流れの一部である。

私は、ビッグデータ現象を重視した理由として「供給爆発による技術革新」を本の中で挙げており、産業構造においても「産業素材の供給と需要」の関係に着目して上記のように説明しているが、一方國領さんはこれと表裏一体の関係にある「切れた関係とつながる関係」に着目し、同じように「大量生産・大量消費」エコシステムが終わり、別のものに代わりつつあるという話をしている。

「所有と販売」を基礎にした経済構造から、「シェアと利用」の経済構造へと移行する、そしてそのためには従来の規格品という仕組みの代わりに「信用」をベースとした仕組みへと移行する。國領さんはそう説く。同じ現象の「つながり」部分に着目すれば、確かにそうだ。そして、國領さんは、「つながりが雪だるま式に増える」ことも指摘している。ここでも、何かが爆発的に増えている。

別の見方をすれば、「切れた関係」を前提とした大量生産・大量消費という現象は、アメリカを中心とした戦後の一時期の「特殊な現象」だったと考えることもできる。その世界から、昔のような、「顔」のつながった信用中心の世界へ、ただしそれより一つ高い段階へと螺旋型に戻る、ヘーゲルの弁証法でいう「アウフヘーベン(止揚)」だと考えると、これはなかなか楽しい。

3)プラットフォームと日本企業の再生

こうした新しい経済の段階において、日本企業も昔風の「モノづくり」だけに頼っているわけにはいかない。新しい世界はまだはっきりした形をなしていない混沌であるので、まだその中でプレイヤーとして勝ち残っていくチャンスがあるのだけれど、じゃぁどうやって、という方法論は一概にはいえず、それぞれの企業によって違うやり方があるだろうと思う。國領さんも、「プラットフォーム・プレイヤーになること」という原則は言っているが、「日本企業はどうすべきか」という、マスコミ的な粗っぽい話はしていない。この種の質問も、講演会などでよく受けるのだが、本当に答えられない。決まったパターンがない世界だから。だからこそ、希望もあるのだけど。

以上、少々まとまりがないが、こんなことを考えている。私の「ビッグデータの覇者たち」をお読みいただいた方は、ぜひこちらも読んでみていただきたい。

 

新刊記念対談のご案内(4/25 11am-)

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新著「ビッグデータの覇者たち」が日本時間で本日発売です。新刊を記念して、来週木曜日に、慶應大学の國領二郎先生とニコ生にて対談いたします。 國領先生は、私にとってはNTT時代の先輩です。日本の通信や情報産業の政策に直接関われる力と立場があり、かつ技術や産業の本質を深く理解して、私利私欲でなく「志」で行動している、私の尊敬する先輩です。先生が3月に出された「ソーシャルな資本主義」という本は、私の「ビッグデータの覇者たち」と相通じる部分が多く、一つの同じ大きな現象を別の角度から見ているように感じました。対談では、そのあたりのお話をお聞きしたいと思っています。

http://live.nicovideo.jp/watch/lv134411778

 

 

 

 

「先進国の経済成長はもう終わったのか?」記事公開

日経ビジネスオンラインの新記事が公開されましたのでお知らせします。年初なので、ニュースというより、この先何十年の話をちょっと考えてみました。写真のノースウェスタン大学経済学教授、ロバート・ゴードン氏の論文についての感想です。